親知らず4本をすべて抜く
親知らず4本を一度に抜いてきました……。
思い返すと壮絶な体験なんですけど、結果的にはよかったと思うので、レポートとして書き残しておきます。まだ親知らずを抜いていない方、抜くかどうか迷っている方、抜く局面に立たされている方……のお役に立てれば幸いです。
“こじらせた”親知らずが見つかる
20代の頃、虫歯治療の際にレントゲンを撮ったところ、ややこしい生え方をした親知らず4本の存在を知らされました。当時の先生が言うには「これは口腔外科じゃないと難しいけど、一生埋まったままかもよ。」と笑って話されたので、いま抜かないならいいかと深く考えずにいました。
ちなみに、親知らずって英語だと「Wisdom Tooth」=「賢い歯」(日本語だと智歯)。全然賢くない、むしろこじらせてる!
10年後、親知らずが活動を開始していた
それから10年余り、近所の歯科医で歯のメンテナンスをしてもらっていると、奥歯の歯周病が進んでいることが判明。1本の親知らずが発達して、奥歯を圧迫し始めていることが原因とのこと。
これはもう抜いたほうがいいね、という話になりました。
レントゲン写真だとこんな感じです。素人目にもやばい、なぎ倒さんばかりの勢いで奥歯に迫ってるし!
先生曰く「4本抜いちゃおうよ」
紹介状を書いてもらって、口腔外科のある大学病院に行ってきました。
まず言われたことは、抜いてから2〜3日は痛みと腫れで仕事できないので休んだほうがいい、ということ。
その流れで先生曰く、
「どうせ休むんだったら、4本抜いちゃわない?」
「4本抜いても痛みが4倍になるわけじゃないよ、1.4倍くらい(笑)」
「全身麻酔なら痛みもなくて楽だよ」
うまくのせられてる気がしたんですが、将来的なリスクを考えれば一気に4本とも抜いちゃうのが最適だなと思い、承諾。あと、話のネタになるし。ちなみに調べてみると、ドイツでは「4本を一度に抜くのが普通」らしいです。(下記参照)
日独の差の理由は極めて単純で、日本の場合「大変だから1本ずつ抜く」と考えるのに対し、ドイツの場合「大変だから全部を一度に抜く」と考えます。どちらも抜歯は大変という認識があるものの、その対処法がまったく正反対であるのは興味深いところです。
親知らずの抜歯について – ドイツ生活情報満載!ドイツニュースダイジェスト
というわけで、ドイツ気質な大学病院で抜くことになりました。
なお、正式な病名は「両側下顎水平埋伏智歯、両側上顎埋伏智歯」でした。漢字ばっかり!
まずは、入院前の事前検診
全身麻酔ということもあり、そもそも入院することに。入院の仮日程を決めつつ、まずは事前検診を受けに行くことになりました。
当日は、身長・体重などの基本データから、血液検査、レントゲン、肺活量、CTスキャン、麻酔科の診察。胃のレントゲンがないだけで、ほとんど人間ドック状態。この検診だけで1万円ちょっとかかりました。詳しい総額は後述します。
入院1日目(手術前日)
週末を挟んで、会社を1週間休むことに。当日は、入院受付をしてから病棟へ。入院患者の証、リストバンドを付けます。
昼食は普通食が出ます。全然足りなくてあとで売店に行きました。
この日は、さまざまな書類にサインをしたり、医師や看護師さんからヒアリングや説明を受けます。手術日は家族の付き添いなしだったので、追加で承諾書類もありました。何枚もの書類を眺めながら、現代医療のリスクヘッジの大切さを思い知るのでした。
夕食は、魚の味噌煮。21時以降は禁飲食のため、普通の食事はこれで最後です。
夕食後に下剤をもらって、出すもの出します。
その後、点滴用の管を通しました。実際の点滴は翌日からで、この日は腕にまとめてもらったまま寝ました。寝づらい……。(病院によっては手術当日のところもあるそうです)
夜のうちに、手術着、手術帽、T字帯が支給されます。着るのは手術当日です。
T字帯は聞き覚えのない名称ですが、要はふんどしです。
就寝前に気分を落ち着ける薬をもらって、消灯時刻の21時には健やかに就寝。
入院2日目(手術当日)
手術予定は午後ですが、朝から点滴がスタートします(ソルデム1輸液)。禁飲食なので、水分やミネラルの補給。
13:20(手術時間20分前)
手術時間が近づいてきたので、看護師さんの指示でパンツをT字帯に着替えます。ガーゼ状の素材でできているので、すぐ外れそう。手術帽をかぶって、歩いて手術室へ。手術時間は2時間程度。順調にいけば夕方までには終わる。
13:40(手術直前)
手術室のドアをくぐり、手術台やその他の機材がずらりと揃った「いかにも」な姿を目にすると、ちょっとずつ怖くなってくる。手術台に横になり、酸素マスクをつけ、深呼吸。全身麻酔で眠気がくるというが、眠気もなにも、いきなり意識が落ちた。
18:30(手術直後)
目を開けると、両脇に医師や看護師がいる。聞かれたことにうつろに受け答えをする。窓の外はもう暗い。時間通りならまだ夕方のはずだが……。
あとで聞いたところでは、出血が想定以上に多く、血を止めながら手術を行ったため、長引いたそう。
意識がはっきりしてくるにつれ、体の異常に気づく。体が熱い。38度を超える高熱。そして、尿道にカテーテルが通されていて、アレの違和感がすごい。ずーっと、限界まで尿を我慢している感じ。さらに、酸素マスクをつけているのだけど、極度の鼻詰まりと口の中の腫れで息が苦しい。
喉が乾く。
早く何か飲みたい(6時間後まで無理って言われた)。鼻の中を吸引してもらうと、真っ赤な血が溢れ出る。鼻の奥まで管を通されるのは辛いけど、それで息が通るようになるので、抗えない。
口の中は絶えず血が溢れて、吐き出さないと辛い。
19:30(手術後1時間)
高熱は少しずつ引き始めて、37度台まで落ちてくる。落ち着きを取り戻しはじめたものの、口の中の血が止まらなくて辛い。
21:00(消灯時刻)
血が止まらないので、ベッドを起こしてもらい、ガーゼを噛んでいた。しかし、1時間経っても止まる気配がないので、医師と相談して、諦めて寝ることにした。両頬が痛かったけど、痛み止めの点滴を落としてもらうと、少しずつ痛みが和らいで寝ることができた。
深夜
夜中に目が覚める。口には酸素マスク、左腕には点滴、胸には機材、尿道にはカテーテル、相変わらず、全身にさまざまな器具が紐付いている。特に辛いのは尿道カテーテル。看護師さんに取ってもらうようお願いしたところ、酸素マスクを取っていい時間になれば、カテーテルも外せるそうだ。
そして、尿道カテーテルを外すときは激痛だった(書いてる今も、思い出すと股間が引き締まる)。男性のみなさんはアレに長い管が突っ込まれていて、それを引き出すことを想像してほしい。死ぬかと思った。さらに、引き出された後も、最初の尿が激痛。もちろん血尿が出る。
次のトイレのタイミングでは、車椅子。たくさん血を流したので、貧血になっているそうだ。
再び痛み止めの点滴を落としてもらって、眠りに落ちる。
入院3日目(手術翌日)
早朝
朝が来た。枕元には、眠っている間に吐き出した血の跡。
まずは医師による検診。看護師さんに付き添ってもらいながら徒歩で移動。
口の中の血はじきに止まるということ。しかし、常に血が溜まっていく状況はなかなかにしんどい。数分おきに血を吐いていた。たまにめんどうくさくて飲み込むのだけど、ドロっとした血液を飲むと、喉に張り付くような感覚に陥る。
午前中〜昼
トイレに行って、鏡で自分の顔を見ると、試合後のボクサーのように頬が腫れ、唇の端は切れて内出血を起こしていた。想像していた顔よりボッコボコで、逆に面白かった。
飲み物OKの許可が出たので、あらかじめ買っておいたボルヴィックを一飲み。口の中が血まみれなので、よく分からなかったが、喉を通ると少しスッキリした。
この日はお昼から食事が出た。当然ながら、お粥食。口が開かないし、口の中は腫れと口内炎で、自分でもよくわからない状態だったけど、まずは食べられることがありがたい。
食後はすぐに歯磨き。とはいえ、奥のほうに歯ブラシを持っていくとすぐに血がつくので、見えるところだけ歯ブラシで、あとはうがい薬(ネオステリングリーン)で消毒。
午後
術後のレントゲンを撮る。あとでプリントアウトしたものをもらった。もちろん4本とも親知らずは消えていて、懸案だった歯周病の原因になっていた親知らずもこの通り消滅。他の3本も綺麗に消えていた。
テーブルには抜いた後の親知らずが置いてあった。瓶の中に収まっていて、壮絶な手術の様子を想像するだに怖くなる。※あまりにグロいのでモザイクをかけました。
ようやくスマホを触れるような状態になってきたので、心配して連絡をしてくれた方々に一報を入れる。
口の中にはまだまだ血が溢れるので、寝ながらときどき起きては血を出す、を繰り返す。
点滴は抗生物質だけになったので、点滴が外れたら売店に行って、ゼリー状の食べ物を買う。
夜
夕食。おかずは食べやすいように刻まれたものばかりだが、これをお粥に混ぜて食べると美味しくなることに気づく。以後、継続。
痛み止めは夜から飲み薬になった。
入院4日目
顔の腫れはまだまだひどい。今日あたりをピークにして、徐々に引いていく。
朝ごはんは全粥食が継続。
口の端が切れてひどいことになっていたので、軟膏(炎症性皮膚疾患治療剤 アズノール)を処方してもらう。
寝ているのもそれはそれで疲れるので、この記事を書き始める。少しずつ体が回復しているのが分かる。口も少しずつ開くようになってきた。
看護師さんから、今回の入院費用の概算をもらった。最終的な金額は後ほど。
昼食の頃には、少しずつ口が開き始めたので、噛むことが苦にならなくなってきた。食べるのが楽しい。
夕方の抗生物質投与で、点滴が終了。管を外してもらう。これでシャワーを浴びられる。自由だ!
夕食もお粥が継続。でも、全然足りない……。
入院5日目
全粥食はこの日も継続。バナナが付いてきたのだけど、ギリギリのところで口が開かない。苦戦しながら食べる。
昼。翌日退院予定なので、滞在時間は残り24時間を切る。
夜。明日の退院に備えて、軽く荷造りを始める。
入院6日目(退院日)
腫れはずいぶん治まってきたものの、口はまだ開きにくい(術後84時間経過)。朝食。
着替えて、荷造りを終えたら、かさばる衣類だけ宅急便で送ってしまう。
会計窓口で一連の料金を支払う。
※なお、術後1週間前後で、抜糸のための通院があります。
ちなみに、この後もしばらく口が開かなかったので、食事は素うどんが中心。口が開かないので、食べ終わるまでにとても時間がかかりました。でも、いいこともあります。
5kg痩せました。
流動食のような食事が1週間続き、その後も少しずつゆっくりしか食べられないので、食事抜きダイエットと同じ。5kgも痩せたので、体が軽いのなんのって……。なお、しばらくすると普通に食べるようになったので、体重は元に戻ってしまいました。
今回の治療にかかった全費用
健康保険を使っているので、自己負担率は30%です。また、1点=10円、10円未満は四捨五入です。
※あくまで一例です。個人の年齢・健康・保険の加入状況、病院の方針等により金額は変わります。
※病院でクレジットカードが使えるかどうか、事前に確認しておきましょう。
事前検診:1万2,020円
内訳は下記の通り。口腔外科と麻酔部の会計が別々だったので、単純に足すと計算が合いませんのでご注意。
初・再診料(口腔外科) | 307点 |
---|---|
検査 | 1,429点 |
画像診断 | 1,987点 |
初・再診料(麻酔部) | 282点 |
手術・入院費用:10万5,100円
内訳は下記の通り。大人6人の大部屋だったので、室料はかかっていません。
入院料等 | 15,547点 |
---|---|
医学管理等 | 250点 |
投薬 | 336点 |
注射 | 557点 |
処置 | 387点 |
手術 | 4,299点 |
麻酔 | 11,037点 |
検査 | 840点 |
画像診断 | 461点 |
合計:33,714点 × 10円 × 30% + 食事療育費3,960円 = 105,100円
補足1:医療保険は適用される?
ライフプランナーに聞いたところ、適用されないとのこと。ただし、入院給付金は出ます。これは契約内容により異なるので、契約している保険内容を確認しましょう。
補足2:高額療養費制度が使える
支払った金額がかなり大きかったんですが、会社の総務に相談したところ、高額療養費制度が使えました。このときはすでに支払っていたので、後日払い戻しを受けました。事前に相談していれば、限度額認定証を受けていれば、自己負担限度額までの負担で済むそうです。
補足3:確定申告できる
毎年確定申告している方ならお気づきでしょうが、金額が金額なので医療費控除が受けられます。会社勤めのサラリーマンの方でも、確定申告しておきましょう。
親知らずを4本抜く……まとめ
手術から1週間。ようやく腫れも治まってきて、少しずつ日常が戻ってきました。書き起こしてみて、手術直後はひどかったなと思うんですが、辛いのは数日だけ。一回で済んでよかったなと思います。また、今回は全身麻酔による手術だったんですが、手術そのものよりも全身麻酔の費用が高いというのが驚きでした。
なお、今回の一連の入院で最も辛かったのは、尿道カテーテルです……2度とやりたくない。
親知らずを4本抜くメリットとデメリット
親知らず4本を一気に抜くことはメリットだらけです。次のような効果があります。
- すべてが1回で済む
- 痩せる!
- 高額医療費なので控除がいろいろ受けられる
- 話のネタになる
- 若いうちにやると回復も早い
もちろんデメリットもあります。
- しばらく顔が腫れて、口が開かない
- そこそこお金がかかる
強く薦めるものではありませんが、迷うくらいなら受けたほうがいいです。
歯科衛生士さんに褒められる歯磨き方法
担当の歯科衛生士さんが歯の磨き残しをマメに指摘してくれるので、歯ブラシを変えたり、フロスを導入したりして、「(歯磨きが)完璧ですね」と言われるようになりました。これまでいい加減な歯磨きをしてきたのかもしれません。
歯ブラシは小さく・薄く・柔らかく
歯ブラシが奥歯の後ろまで届かない人、いませんか?ブラシ(毛束)のついたヘッドと呼ばれる部分は、小さく薄いものを選びましょう。大きい歯ブラシでゴシゴシしたい気持ちは分かりますが、しっかり磨かないといけない部分に全く届きません。
「かため」の歯ブラシが好きな人いませんか?僕もそうでした。でも、「かため」は歯茎を傷めたり、歯がうまく磨けなかったりするため、選ばないようにと言われました。「ふつう」あるいは「やわらかめ」で十分汚れは取れるそうです。
というわけで、歯ブラシはこれ一択です。「極薄ヘッド」はダテじゃありません。この磨きやすさなのに、ドラッグストアとかで100円台で買えます。
歯と歯の間には食べカスが詰まってる
歯ブラシを使って取れる食べカスは、せいぜい40〜50%くらいという印象。それくらい、食べカスはいろんなところに詰まっている。まずは歯と歯の間。これはフロスを使おう。慣れないと怖いけど、使うとけっこう食べカスが出てくる。
フロスはいろんな会社から出てるけど、オススメはこれ。50本入って300円前後。もちろん1回使い切り。絶対に使い回さないように。
歯茎が少し下がっていて、歯と歯の間にスペースがあるひとは、歯間ブラシを併用しよう。ここも食べカスがゴロゴロ出てきやすい。最初は血がつくこともあるけど、歯茎が引き締まってくるにつれて、出血はなくなる。最初はSSSなどの細いもので慣れていこう。ブラシに透明なねっとりしたものがついていたら、それが歯垢。ほうっておくと石灰化して歯石になります。
ネットで買うと、送料とかで高くなることもあります。ちょっと大きめのドラッグストアなら全部揃うので、時間に余裕のある人はリアル店舗で買うのがオススメです。
抜歯で入院する人のための持ち物リスト
今回5泊6日の入院でした。もしこれから入院される方がいたら、参考にしてください。たいていのものは病院の売店で売っていますが、余計な出費は避けたいものです。
- 泊数分の着替え(病棟内は一定の温度が保たれているので、厚着の必要はないです)
- 泊数分のビニール袋(あって困ることはないので、余分に持っていきましょう)
- 泊数分のタオル(手術前後はバスタオルがあると何かと便利)
- 髭剃りとシェービングクリーム(男性なら)
- 歯ブラシと歯磨き粉
- 退院時の着替え(入院日と同じでいいなら不要)
- パーカーなどの上着(朝方は少し冷えるので)
- リップクリーム(部屋はやや乾燥気味、乾燥防止にあると便利)
- ボックスティッシュ(ポケットティッシュではすぐ無くなる)
- シャンプーとリンス
- ボディーソープ or 石鹸
- コップ or 湯呑み(歯磨き用&食事前にお茶が出ます)
- スリッパ(底の厚い方がラク)
- メガネ拭き
- ウェットティッシュ
- ボールペン(いろいろ書かされます)
- 小銭入れ(売店に行くとき便利)
- iPhoneなどスマホ用のケーブルと充電器
- iPadなどのタブレットとスタンド(動画を見るとき便利)
- イヤホン(病院内ではTVもスマホもスピーカーで鳴らせません)
【追記】抜歯から6年半が経ちました……(後日談)
この日記を書いてから6年半が経ちました。このときの体験は、親知らずの話になると、必ず興味を持って聞かれる鉄板ネタになりました。親知らずがなくなったおかげで、奥歯の奥にも歯ブラシが届くようになりましたし、歯周病のリスクも減りました。手術直後は辛かったですが、病気ではないので回復も早かったですし、いまだに抜いてよかったと思います。